新型コロナウイルスの影響もあり、物流業界の需要は急増しています。
需要が高まる物流業界ですが、一方でさまざまな問題に直面しています。
業界が抱えている問題や、課題解決に向けた対策はどのようなものがあるのでしょうか。
今回は、物流業界の現状や課題について、解決策や今後の見通しを踏まえながら解説します。
●物流業界の現状とは
昨今の物流業界は、在宅時間の増加やEC市場の普及に伴い、ますます需要が増加しています。
ここでは、物流業界の現状についてデータを基にお伝えします。
現在の市場規模
経済産業省の調査によると、物流業界全体の営業収入は約28兆円、そのうち約19兆円はトラック運送業が支えています。
また、トラック運送業の従業員数は約194万人で、物流業界全体の約90%がトラック運送業に携わっているのです。
輸送量
令和2年度の国内貨物総輸送量は年間約41億トンとなっており、トラックの負担率はそのうちの約90%です。
また、宅配便取扱個数は、EC市場の需要増加に伴い5年間で23.1%増加しています。
国土交通省の調査によると、宅配便取扱個数は49.5億個で前年度より2.4%増加、メール便取扱冊数は42.8億冊で1.1%増加している現状です。
今後も輸送量は増加の傾向をたどると見込まれています。
●物流業界が抱えている課題とは
今後も需要増加が見込まれている物流業界ですが、どのような課題を抱えているのでしょうか。
ここでは、代表的な課題である「燃料の高騰」「小口配送増加」「労働力不足」「環境問題」「2024年問題」についてお伝えします。
燃料の高騰
物流業界では、燃料が1円上がることによって生じる業界全体の負担額は約167億円になるといわれています。私たちの生活に大きく影響している燃料高騰ですが、物流業界でも深刻な問題になっているのです。
この問題には政府も対応に身を乗り出し、荷主に対して燃料高騰分の運賃を反映させる協力要請や、不当な運賃に対する勧告などを強化していくと発表しています。
しかし、燃料高騰は今後も収まらないと予想されており、根本的な対策が必要不可欠といえるでしょう。
小口配送増加
ECサイトの利用増加に伴い、少量の荷物を個々の配達先に届ける小口配送が増加しました。
小口配送は、企業や店舗へ配送する大口配送と比較して、多くの配達回数と人件費を必要とします。
また、ECサイト側の「即日配送」「送料無料」といった過剰サービスにより、ドライバーの負担はますます増えているのが現状です。
この問題を解決するためには、我々消費者や荷主が物流の負担を理解することが大切です。その上で、不在による再配達の防止や過剰サービスの見直しを検討する必要があるでしょう。
労働力不足
若年層の割合が低い物流業界にとって、人材不足はかねてより深刻な課題となっていました。そんな中、日本では少子高齢化が進行しており、若年層の人材確保はますます困難になっています。また、長時間労働や低賃金といった労働条件も、若手人材確保の機会を損ねている要因として考えられています。
人材不足解消には、これらの問題を解決しなくてはいけません。しかし、収入源となる運賃の確保や、担い手不足による労働負担などが根本にあるため、容易に解決できる問題ではないのが現状です。
環境問題
輸送時に排出されるCO2は、日本全体のCO2排出量のうち17.9%をしめています。その要因には、燃費の悪化や道路の渋滞などが関わっているといわれています。
また、個々の企業で対策をしても大きな効果が期待できないことから、環境対策を最優先としていない企業が多いのが現状です。そのため、CO2削減には物流に携わる業界全体が連携し、対策を行う必要があるのです。
2024年問題
2024年問題とは、2024年4月1日以降適用される働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働が上限960時間/年に制限されることで、発生するといわれている問題の事です。
起こり得る問題として、従来通りの長距離輸送ができなくなる、輸送の遅延が生じる、新鮮なものの提供が難しくなる、などがあげられています。
これらの問題を回避するためには、トラック業者だけでなく荷主や消費者も対策を講じる必要があるでしょう。
例えば、トラック業者が効率的な運行計画を立てること、荷主が送料無料や即日配達などのサービスを見直すこと、消費者が再配達に対する意識を改善することなどの対策が考えられます。
●物流の規制緩和とは
物流の規制緩和とは、業界の効率化や活性化を目的とし需要調整規制を廃止したことを指します。物流業界では、この施策が原因で労働環境が悪くなった、ともいわれています。
ここでは、規制緩和の歴史やもたらした効果、問題点についてお伝えします。
規制緩和の歴史
1990年頃、最初の規制緩和が行われました。ここでは、事業参入時の届出が許可制へ、運賃は届出制に変更されました。
1996年、2度目の規制緩和では、最低車両台数の引き下げや営業区域の拡大などが行われました。
その後、営業区域性の廃止やルート設定の自由化、運賃の事後届出制など10回以上の規制緩和を経て、物流業界は大きく変化をしていったのです。
規制緩和の効果
規制緩和によって業界に参入しやすくなり、小規模事業者が増加しました。
それに伴い業界内の競争も激化し、より良いサービスを提供しようと業界全体の生産効率が上がったのです。
また、荷主側がサプライチェーンマネジメントを導入したことで、全体の物流効率化や在庫やコストの削減、輸送時間の縮小などによる顧客満足度向上も実現されました。
規制緩和の問題点
規制緩和によってさまざまな効果が生まれましたが、一方で問題点も多く残しています。
例えば、小規模事業者の競争激化による、過積載や過労運転などがあげられます。
結果として、ドライバーの負担が増えてしまい、交通事故の増加や安全性の低下につながったと考えられています。
また、これらはトラック業界の若手人材確保を困難にした要因ともいわれています。
●課題に対する解決策
物流業界では課題解決に向けてさまざまな取り組みがされています。
ここでは、解決策についてお伝えします。
労働環境整備
人材確保や定着率向上を目的とし、働きやすい環境になるよう労働環境の整備が進んでいます。
実際の取り組みとしては、有給休暇の取得促進や賃金形態の改定、業務分担などがあげられます。他にも、健康管理プログラムの提供やキャリアパス制度の整備など、多様な働き方を受け入れる体制づくりも導入されています。
また、女性の積極的な採用をするための、託児所の設置や養育手当てによる子育て支援も導入されつつあり、男性社会だった物流業界で意識改革が行われているのです。
グリーン物流
グリーン物流とは、輸送時のCO2排出量を削減しようという取り組みです。
主な取り組み事例には、走行台数や距離を減少させるための共同配送や、カーボンニュートラルを目的としたエコカーの導入、地球に優しい燃料の使用などがあります。
この取り組みは各企業で行っているのではなく、産業界と物流界が共同で行っています。環境問題を解決させるには、関わる全ての業界や会社が連携することが大切なのです。
デジタル化
物流業界では、作業の負担軽減や効率化を目的とし、デジタル技術が多く導入されています。例えば、倉庫への仕分けロボット導入や、商品管理のデジタル化などです。
デジタルの活用によって作業の効率化を図ることができ、一人当たりの負担軽減や人材不足解消につながっています。
物流効率化
物流を効率化するために、車両を大型化して一度に運べる量を増やしたり、途中でコンテナを交換し出発地点へUターンする「物流中継地点」を導入したりと様々な対策がとられています。
また、根本的な解決策として「モーダルシフト」という仕組みがあります。モーダルシフトとは、輸送方法を従来のトラックから船や鉄道に変えることです。
少ない人員で大量の荷物を運べるほかに、道路環境の改善や環境問題の対策にも繋がることから、今後さらに導入が進むことが期待されています。
●今後の物流業界の見通し
物流業界はEC事業の拡大などにより、さらに需要が伸びていくと考えられています。
その中で、予想されている2024年問題に対して対策を講じない場合、輸送能力が2024年の時点で14.2%、2030年の時点では34.1%不足する可能性があるといわれています。
今後は、デジタル技術の導入や、物流効率化、労働環境改善などの対策が鍵となっていくでしょう。
また、複数の物流企業が連携して1つのトラックで輸送を行う、「共同輸送」の取り組みも進んでいます。
このように、物流業界では常にさまざまな対策がされているのです。
私たちが生活をする上で欠かせない存在である物流業界。環境の改善や作業の負担を軽減させるためには、消費者の私たちも「過剰なサービスを期待しすぎない」「再配達を防ぐ」などの理解を示す必要があるでしょう。