この記事では、物流業界の現状や女性雇用のメリット、キャリアパス、女性の働き方改革について解説します。
●物流業界で働く女性の現状
物流業界は、運送・倉庫・流通加工・物流システムなど、さまざまな分野に分かれています。
物流システムなどのオフィスワーク中心の業務では女性が多い傾向がありますが、運送や倉庫などの業務は重労働や夜勤が多く、男性の比率が高くなっています。
オフィスワークでは女性が多いとはいえ、「きけん・きたない・きつい」の3Kイメージが強い物流業界は、働いている女性の割合が20%以下と低い水準なのが現状です。
●なぜ女性雇用が少ないのか
なぜ女性雇用の水準は上がらないのでしょうか。
ここでは、代表的な3つの原因について解説します。
男社会という風潮
物流業界は伝統的に男性が多く、女性は珍しい存在という風潮が残っています。
女性自身が男性の中で仕事をすることに抵抗感や不安を感じたり、女性のキャリアアップが叶わなかったりすることが、雇用率を下げている原因の一つです。
施設の環境が整っていない
倉庫や施設の環境が整っていないことも大きな要因です。
例えば、トイレや更衣室が不足していたり、清潔さや安全性が低かったりすることがあげられます。女性水準を増やすためには、設備や施設の環境を整える必要があるのです。
柔軟な勤務体系や制度の不足
ライフイベントごとにワークスタイルを変えられることは、女性が仕事を選ぶ上で大事な要素です。しかし、物流業界ではそれらに対応できる柔軟な勤務体系や、制度が不足している現状があります。
家庭の事情に合わせて働けるフレックスタイムやパートタイムの導入など、女性にとって働きやすい環境を整えることが、女性雇用の水準を増加させるために必要な要素です。
●物流業界で女性を採用するメリット
近年では、人口減少や高齢化に伴う人手不足や消費者の多様化に対応するために、女性の活躍が期待されています。
ここでは、女性社員を雇用する具体的なメリットについて解説します。
女性目線のアイデア提案
男性目線になりがちだった物流業界の中で女性目線を取り入れることは、新たなサービスや改善策の提案がうまれるきっかけになります。
そのため、消費者の多様化やニーズの高度化に対応には、女性の声を反映させることが求められているのです。
また、女性はコミュニケーション力や気配りが得意といわれています。女性雇用を積極的に行うことで、社内外の関係者との連携や交渉を円滑に進めることが期待できるでしょう。
丁寧さや正確性
女性は男性と比較して、「細かさ」や「几帳面さ」を備えているといわれています。
全ての作業において丁寧さや正確性が求められる物流業界では、女性の細やかさや正確性が活躍できる場が多くあります。
女性の特長を荷物の紛失や破損、遅配といった不足の事態の減少につながり、会社に大きなメリットをもたらすのです。
企業価値の向上
女性を採用するメリットとして、企業価値の向上も考えられます。物流業界は男社会というイメージが強いですが、女性を採用することで多様性や柔軟性を示すことができるのです。
社会的な責任感や公正さを示し、客や取引先からの信頼も得るためにも女性雇用は欠かせません。
全社員にとって働きやすい職場に
女性を積極的に雇用し職場環境を整えることは、男性社員にとっても働きやすい環境になることを意味しています。
代表的な例としては、荷役作業の軽減や勤務体系の見直し、施設環境の改善などがあります。機械の自動化や設備を整えることで、男性社員も体力的な負担や長時間労働をしなくてよくなり、社内全体の環境改善につながるのです。
また、女性比率が高い職場は、「会社の雰囲気が明るくなった」という効果もあります。 明るく活気のある職場は、従業員のモチベーションや生産性を高めるだけでなく、新たな人材の確保をする上でも有利です。
●物流業界における女性のキャリアパスとは
男性が多く働いているイメージがある物流業界ですが、女性にはどのようなキャリアパスが期待できるのでしょうか。
ここでは、物流業界における女性の管理職の割合や、2016年に制定された女性活躍推進法について解説します。
物流業界における女性管理職の割合
帝国データバンクの調査によると、2022年時点での女性管理職の割合は6.9%となっています。前年度の5.7%から1.2ポイント増加したものの、「女性管理職30%」という政府目標には到底及ばない数値なのが現状です。
水準が低い原因としては、男社会が根付いている故に、女性がキャリアアップすることに抵抗感を持つ人が多いことがあげられます。
また、結婚や出産・育児などで仕事を中断することも多く、キャリア形成が難しいことも一因です。
女性活躍推進法の制定
男女の賃金格差を縮小したり、女性管理職の割合を増加させたりするために、2016年8月に「女性活躍推進法」が義務付けられました。
法律が制定されたことにより、女性のキャリア形成を支援するためのメンター制度や研修制度などを導入したり、女性が管理職になるための道筋を示されたりするようになったのです。
女性活躍推進法では、3Rと呼ばれる下記に記載している取り組み事項を推奨しています。
①RECRUIT:女性の採用枠や活躍できる職種を増やす採用を行う
②RETAIN:採用した女性社員の能力を発揮できる職場環境を整え、定着させる
③RAISE:女性社員を管理職になれる人材に育成する
①②③を循環させ、活躍する女性社員のロールモデルを増やすことで、さらなる業界志願者を増加させようという目的があります。
このように物流業界全体で、女性管理職を育成するための取り組みが活発になっているのです。物流業界は、女性管理職の増加やキャリアパスの形成が将来的に期待できる業界、といえるでしょう。
●物流業界での女性の働き方改革の取り組み
物流業界では女性雇用を増やすために、雇用低下の要因を改善するさまざまな改革がされています。
以下では、環境づくり・意識改革・能力開発という3つの観点から、具体的な取り組み内容について紹介します。
環境づくり
昔の物流業界はコストを抑えるために、必要最低限の設備や施設で運営していました。その結果、施設が汚い、設備が充実していない等のイメージが定着してしまい、人手不足や女性雇用の低下に悩まされているのです。
そのようなイメージを払拭して人手不足を解消させるために、施設のデザインの一新やトイレや更衣室などの女性専用設備を充実させ、女性が働きやすい環境づくりをする取り組みがされています。
また、力仕事が必要となる荷役などは機械を導入するなど、重労働の負担軽減に対する取り組みを行うことも大切です。
意識改革
男性の割合が多い物流業界では、男社会のイメージが強く女性が働くことに対する偏見や固定概念が残っています。
「男社会の業界」から「女性が活躍できる業界」へイメージを変えるために、暗黙の了解となっている性的役割分担の解消や、セクハラ・パワハラをなくすための研修などの意識改革を行う取り組みがされています。
能力開発
働く女性にとって、能力開発は自信やキャリアアップにつながる重要な要素です。しかし、物流業界では女性向けの教育・研修制度が、十分に整っていない一面があります。
これらを解消し、女性キャリアアップのロールモデルを増やすことは、さらなる女性雇用の増加も期待できるのです。
そのため、女性のキャリア形成を叶える手段として、知識やスキルを学べる学習機会の実施や資格取得の推奨など能力開発に対する取り組みがされています。
●ワークライフバランスの充実に向けた実際の取り組み
各地の物流会社で、さまざまな子育て支援制度が導入されています。
子育て支援に取り組みワークライフバランスを充実させることで、出産による離職率の低下や多様な人材の活用などが期待されているのです。
ここでは、各地で行われている子育て支援制度の実例をご紹介します。
託児所の設置
マルソー株式会社では、本社敷地内に託児所を開設し、従業員の子どもの受け入れをしています。託児所を企業内に設置することで、育児が理由の離職率の低下や預け先が近いことによる従業員の負担の軽減が期待されているのです。
柔軟な労働時間制の導入
柔軟な労働時間制とは、労働者が自分の都合に合わせて働く時間を決めることができる制度のことです。
佐川急便では、子どもが3歳になるまでの間に育児休業を取得できる制度を拡充したり、小学校4年生になるまで時短勤務やフレックスタイム制度を利用できるシステムを導入したりしています。
このような制度を導入するメリットとして、仕事と生活のバランスがとりやすくなり、労働生産性や従業員の定着率が向上することがあげられます。
●女性の活躍が期待される物流業界
今回は、物流業界の現状や女性雇用のメリット、キャリアパス、女性の働き方改革について解説しました。
物流業界は、社会や経済の変化に対応するために女性の力を必要としています。職場環境の改善やワークライフバランスの充実など、今後ますます積極的になっていくことが期待できるでしょう。
また、生活の基盤を支えている物流業界の人手不足を解消するためにも、消費者である我々が現状を知り、物流業界のイメージを更新していくことが大切です。